神崎塾長のつぶやき
令和7年夏号「幽霊と妖怪」
夏の夜は、幽霊や妖怪(お化け)が出やすい、とされてきました。一般的な解釈では、幽霊は、特定の人の死霊。対して、妖怪は、人間以外の精霊や死霊をもって正体不明の「ものの怪」とします。
幽霊は、出現場所を選びませんが、特定の人の元に出現します。その時刻は、丑三つ時(午前二時前後)が定説で、相手が就寝時の枕元や用足しに向かった厠のあたりに出現することになります。対して、妖怪は、山・川・道端・古屋敷など出現場所がほぼ特定されますが、橋のたもとがもっとも怪しい場所となります。橋が築かれる前までは、川向こうは異界とする観念が強く、それを橋をもって結んだわけですから、異界から魑魅魍魎が渡ってきて橋のたもとに潜む、としたのです。
妖怪が出現するその時刻は、たそがれ時です。たそがれは、「誰そ彼」。かわたれ時ともいいます。日暮れ時であって、周囲が見えにくい。よけいに恐怖心がつのります。それを「逢魔が時」ともいったのは、つまりは妖怪と出会う時間帯だからです。
幽霊や妖怪の出現は、とくに盆の前後に集中する、という認識が一般には強いでしょう。盆は、先祖の霊を家に迎え、供物を供えて供養する行事です。
盆に迎える祖霊は、大別して三種。一般的には、本仏(祖霊)と新仏(新精霊)と無縁仏(餓鬼霊)とに分けて扱いを違えます。本仏は、すぐに仏壇に招聘。新仏は、まだ成仏せず彷徨える霊として、座敷や縁側に別の祭壇を設けて祀ります。無縁仏は、血縁霊ではないので家に招き入れません。ただ、庭や村境に餓鬼棚を設けて供養する習慣が伝わっていました。
なぜに有縁無縁の餓鬼霊までを供養するのでしょう。そのなかで、この世に思いを残して死んだ怨霊の祟りが怖いからです。幽霊は、そうした怨霊の変化、としてよいでしょう。「うらめしや」と登場しないよう供養するのです。日本人ならではの、宗教にあらざる信仰としてよいでしょう。
むろん、幽霊も妖怪も、人びとの不安や懐疑のなかで生じる幻想です。ただ、盆供養もついおろそかにしがちな現代人。霊界からの苦情がそこにあるのだとすれば、しばし対峙してみるのもよいのではないでしょうか。
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伊勢 美し国から
番組概要
「伊勢美し国から」は、日本人古来の生活文化を「美し国」伊勢より発信する15分番組です。
二十四節気に基づいた神宮の祭事や三重に伝わる歴史、文化、人物、観光、民間行事などを紹介。古の時代から今に伝わる衣食住の知恵と最新のお伊勢参り情報を伝えます。
五十鈴塾は、日本文化の再発見を目指して各種講座及び体験講座などを開催してきた実績を活かして、この「伊勢美し国」番組企画を行っています。